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ページ番号:24387
更新日:2026年6月15日
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コムギの「稈」の話
6月は奈良県でも栽培されているコムギの収穫期に当たります。黄色く成熟したコムギの穂がまるで波のようにゆらゆらと揺れ動く、そんな光景が県内各地で見られるようになります。いわゆる「麦秋」の季節です。コムギは、その細長い茎の最も高い位置に重い種子を稔らせるという、重心が高い、実に不安定な形をしています。わずかな風で麦が揺れ動くのもそのためで、今にも折れそうな危なっかしい見た目ですが、実はそう簡単には折れたりしないある特殊な構造によって支えられています。
コムギの茎を水平にカットしてその断面を見ると、パイプ状の中空構造になっていることが判ります。いわゆるストローの形ですが、このようなストロー状の茎の形が強さの秘密で、この茎を特に「稈(かん)」と呼びます。
仮に、同じ材料を同じ量使って、同じ長さの棒を2本作るとします。一方は中まで身の詰まった棒、一方は中空にしてパイプ状にすると、見かけ上は身の詰まった棒よりパイプの方が太くなります。実は構造的には、こうして壁を薄くしてパイプ自体を太くすればするほど、中の詰まった棒よりも、はるかに曲げや折れに強くすることができるのです。
もちろん、どんどんパイプを太くして壁を薄くすると壁自体が耐えられなくなって壊れてしまいます。そこで、建築や機械設計などでも、材料はなるべく節約しつつ、それでも必要な強度はしっかり保つ限界点を見極めるため、使用するパイプなどの材料や全体構造の強度計算が実施されます。
コムギをはじめとするイネ科の祖先は、長い進化の過程で茎をストロー状に、すなわち「稈」の構造にすれば材料を節約しても茎自体を強くできると気づき、本能的に茎の「強度計算」を試み続け、今のコムギのような強靭な「稈」を発達させてきたともいえるでしょう。
多少の風なら軽く受け流して、そう簡単に折れたり倒れたりしないのは、この「稈」の構造のおかげなのです。
【豆知識】
奈良県におけるコムギの生産振興
コムギをはじめとするイネ科植物は農耕起源植物の一つとして世界で最も重要な植物です。我が国でもその重要性は変わらず、古事記における食物起源譚では「五穀」のうちにとりあげられ、奈良時代の養老6年(722年)には、元正天皇が「晩稲 そば、大麦、小麦を植えて凶年に備えさせよ」と命じるなど、歴代の天皇がしばしばその重要性を訴え、新嘗祭などを通じて「五穀豊穣」を祈願してきました。
近年の奈良県においてもコムギの振興は重要な農業施策の一つであり、昭和10-20年代の「農林59号」や昭和30年代以降の「ジュンレイコムギ」、「オマセコムギ」、平成以降は「きぬいろは」、「ふくはるか」を経て、現在は「はるみずき」を県の奨励品種として生産振興にあたっています。「はるみずき」はパンに向いた強力系小麦粉が採れる極早生品種であり、県内で150ha、400tあまりが生産されています。
(写真:コムギの稈を切断したところ。中は空洞になっています)
