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更新日:2026年8月29日
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学芸員の部屋
ここでは当館学芸員のコラムを随時掲載していきます。
2026年8月20日
学芸員 三浦 敬任
「みやこのかたち」展を開催して
きっかけは「連携企画」
皆さんは、美術館の展覧会の企画がどのように進むかご存知でしょうか。学芸員が長年温めていた(研究していた)企画が満を持して実現することもあれば、ミッションを受けてスタートすることもあります。今回の「みやこのかたち」展は、後者でした。
およそ一年半前のことです。美術館と万葉文化館という、奈良県立のふたつの文化施設がタッグを組み、企画展を開催しようという話が持ち上がりました。異なる性質の施設が組むわけですから、まずは軸を探らなければなりません。万葉文化館の平出さんと私(美術館・三浦)とで、テーマ探しに頭を悩ませることになったのです。
「美術」から考える「みやこ」
連携企画が立ち上がったその頃、奈良県(とくに橿原市や明日香村)では「飛鳥・藤原の宮都」の世界遺産登録への機運が高まりを見せていました。せっかく歴史学や考古学の方面から「みやこ」に注目が集まっているのだから、「美術」から「みやこ」を考えても面白いのでは?と考えて、「みやこ」という軸で、美術館・万葉文化館の作品を集めてみようと展示作品の選定を始めました。
とはいえ、「みやこ」というテーマで作品を選定すると、「京都」を描いた作品や、京都で活躍した作家など、かなり狭い範囲の展示になってしまう可能性がありました。もっとも、「みやこ」と一口に言っても、その意味は広く、天皇の住まう所をそう言ったり、宮殿や条坊のような制度的なことを指し示したりします。また、人が暮らし、経済や文化活動を行う場所と考えることもできます。それゆえに、この展覧会では「みやこ」の範疇をかなり広く捉えて、「住めばみやこ」という言葉が近いでしょうか、「みやこ」を歴史的な制度や遺構としてだけでなく、描かれ、見つめられ、イメージされてきた場として提示しています。
さらに世界遺産登録される時期が夏休み期間にあたるという予想も踏まえ、一部の美術ファンだけでなく広く一般の方々にも親しんでいただけるよう、「みやこ」が絵画のなかでどのように描かれてきたか、美術の歴史をたどる概説的なものすることと、ふるさとの奈良の町並みや土地の風景を描いた作品を並べて見ていただくことがよいだろうと考えました。とくに「みやこのかたち」展の3室目は、「描かれた奈良」の展示となっており、1987年の「描かれた大和」展を念頭に置いています。

「みやこ」の対としての「旅」
2つの館が連携するからには、単一のテーマで展示を構成するのではなく、互いに連環する「対」のテーマを持たせたいという思いがありました。
「みやこ」という言葉を、単なる地理的な中心地や権力の象徴としてではなく、「人が定住し、人々のいとなみが連続する空間」として捉えたとき、その対極にある概念とは一体何でしょうか。万葉文化館側の展覧会「たびにしあれば」のテーマは、「みやこ」の対となるものを探した結果として導き出したものです。考えてみれば、『万葉集』のなかでも、みやこを離れて詠まれた「旅」の歌は少なくありません。

この「旅」というテーマにはもう一つの意図も込められています。展示室で「みやこ」と「たび」の絵画を鑑賞するだけでなく、実際に皆さん自身に奈良(県立美術館)と明日香(万葉文化館)を行き来してほしいという願い(行政的すぎるか?)がありました。
そのために「回遊のしおり」を作成して、両館をめぐっていただくスタンプラリーを企画したのですが、ノベルティのファイルが存外人気となり、正直なところ、準備した私たちのほうがかえって驚かされることになりました。奈良⇔明日香は特別な機会がないと足が向かない感覚は、筆者もよくわかります。

万葉文化館の「本領」を紹介したい
今回の連携にあたり、美術館側が密かに抱いていた目標があります。それは万葉文化館の「本領」を紹介することです。
正直なところ、万葉文化館がどういった施設かご存じないかたや、そもそも万葉文化館がどこにあるのか分からないかたもおられるのではないでしょうか。本来的には、25年前に万葉集と古代史研究のために立ち上がった専門機関です。その学術的側面を、美術館の来館者にもぜひ知っていただきたいと考えました。
今回の展示では、「万葉日本画」という『万葉集』に取材した作品群に加えて、万葉文化館が所蔵する研究資料の一部も拝借して陳列しています。また、7月11日には奈良公園のバスターミナルで、万葉古代学講座 in 奈良を開催しましたが、これも単なる展示施設という枠にとどまらない、万葉文化館のすがたを知っていただくための試みでした。ちなみに、7月の講座に来場出来なかった方にも朗報で、10月31日に万葉文化館でも「万葉古代学特別講座」が執り行われる予定です。詳しくは下記URLをご覧下さい。https://www.pref.nara.lg.jp/n046/event/p107017.html

これからの連携に向けて
ともあれ、今回の試みを通してあらためて感じたのは、県立の文化施設同士が連携することの可能性と難しさです。それが今後も「展覧会」というかたちを取るのか、あるいは別の方法になるのかは、まだ分かりません。しかし、企画する学芸員としても館の性格が違うからこそ見えてくるものがあり、行き来することで初めて生まれる理解もあるはずですから、県内の施設間連携は続けて行くべきだと考えます。また、展覧会をご覧頂いたみなさんにとっても、奈良と明日香、あるいは美術と文学、展示と研究とを、少しでも往復して考えるきっかけになったのであれば幸いです。
バックナンバー
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