印刷
ページ番号:19003
更新日:2026年2月27日
ここから本文です。
奈良のむかしばなし
県民だより奈良
2025年12月号

第89話
信海上人(しんかいしょうにん)の土だんご
文・山崎しげ子
西の生駒山系、東の矢田丘陵に挟まれた平群谷(へぐりだに)。その中央を竜田川が流れる。この地も都市化が進む中、近鉄生駒線の平群駅から西に見える風景は趣深い。
山や森の濃い緑、起伏にとんだ地に広がる田や畑。瓦の鈍く光る農家のたたずまい。時が止まったような美しさだ。
かつて、五世紀のころこの地を有力な古代豪族、平群氏が支配していた。平群真鳥(へぐりのまとり)、平群鮪(へぐりのしび)父子はヤマト王権で活躍した。
***
その昔、旅の僧、信海上人が平群谷で修行していた。ところが、突然、上人の足が痛みだした。立ち上がれない。村人たちが水や薬草を用意したが、一向によくならない。
上人は、さらに修行を積みながら「どうぞ足の痛みを取って下さい」と祈り続けた。上人はやせ細り、まとった僧衣はぼろぼろに。
が、ふと上人は気が付いた。そうだ、祈りに夢中で、お供え物をしていない。上人は願掛けのため、不自由な体で山の土を集め、十二個のだんごを作り、お供え物とした。
満願のその日、何と、上人は両足で立つことができた。あっ、痛みもない。目は涙でうるみ、涙の中に観音様の姿が映っていた。
数日後、上人はすっかり元気な足取りで平群村へ戻った。村人たちは皆、大喜びで迎えたのだった。
***
平群駅から西へ徒歩約三十分のところ、平群町越木塚にある古社「石床(いわとこ)神社」。江戸時代には下半身の病気にご利益があると茶店が並ぶほどの賑わいだったとか。今は、人影もなく、樹木が鬱蒼(うっそう)と茂って天を覆い空も見えない。鳥の声さえ聞こえない、まさに静寂の地。
さらに、境内の西の石段を、残り落ち葉を踏みながら上ると「消渇(しょうかつ)神社」があった。かつて、この神社では、願掛けに土のだんごを十二個供え、願いが叶うと、お礼に米のだんごを十二個お供えしたという。
ささやかな拝殿の薄暗い中をそっと覗くと、あっ、あった、あった。小型の折敷(おしき)に土だんごが十二個、供えられていた。少々、乾燥してはいたが。今も土だんごの信仰は生きている。

幸せを祈願する伝統行事 平群町 椣原(しではら) 勧請綱掛(かんじょうつなか)け
- 時 1月11日(日曜日)8時30分~16時頃
- 所 金勝寺境内
- 主催 椣原自治会
椣原の勧請綱掛けは一千年以上続くとされる伝統行事で、疫病退散、身体健全、五穀豊穣、子孫繁栄を願うもの。綱を掛ける場所に滝があり、龍神信仰とも結びついています。雄綱と雌綱の2本を作り、雄綱には龍の足2本と男性のシンボルが付けられます。椣原の勧請綱は古い形式が保たれており、子どもや女性も子綱作りで参加できることが特徴です。地域の伝統として力を合わせて綱を作るため、人と人をつなぐ行事として大切に受け継がれています。当日は紙芝居の披露のほか、地元のお店の商品が並ぶ模擬店や、来場者へのふるまい品も楽しめます。

竜田川に綱を掛けている様子
物語の場所、平群町を訪れよう

金勝寺(平群町椣原53)
- アクセス 近鉄生駒線元山上口駅下車徒歩10分
- 問 平群町教育委員会総務課
- 電話 0745-45-2101
- 問 観光産業課
- 電話 0745-45-1017