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ページ番号:19001
更新日:2026年2月27日
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はじめての万葉集
県民だより奈良
2025年12月号

【vol.139】
大和(やまと)なる 宇陀(うだ)の真赤土(まはに)の さ丹(に)つかば
そこもか人の 吾(わ)を言(こと)なさむ
作者未詳(巻七・一三七六番歌)
訳 大和の宇陀の真赤土の丹色が衣に着いたら、そんなことでも世の人はわたしを言い立てるだろうか。
宇陀の真赤土
この歌の「真赤土」とは、硫化水銀のこととみられます。「大和なる宇陀の真赤土」と表現されているように、宇陀は「真赤土」の産地として知られていました。
歌に「赤土」「丹」とあるとおり、硫化水銀は赤色の鉱石ですが、そこから採れる水銀は銀色です。水銀は常温で凝固しない唯一の鉱物であり、その不思議な銀色の液体は、不老不死の仙薬の原料と信じられ珍重されました。隋・唐代の辰州(現在の湖南省あたり)で多く産出されたことから「辰砂(しんしゃ)」とも呼ばれるようになったといいます。現代では水銀が猛毒であることは周知されていますが、古代においては、漢方薬や顔料、防腐剤などとして広く利用され、産出地に莫大な富をもたらしたそうです。
この歌が収められた『万葉集』巻七は、作者も作歌年代も明記されていない歌巻です。思いを物にたとえる歌を集めた「譬喩歌(ひゆか)」という部立てのなかの「赤土(はに)に寄せたる」と題された一首であり、世の人が言い立てるだろうか、と激しく噂されることを恐れるような歌であることがみてとれます。
古代日本の恋愛や結婚においては、男性が女性のもとへ密かに通い思いを交わすことがマナーであったようなのですが、本歌はむしろ宇陀に恋人がいることを表明した歌といえるのかもしれません。
この歌は作者も詠まれた時代もはっきりとはわかりませんが、旅の記念にその地の名物を衣に着けようと詠んだ例に「白波(しらなみ)の千重(ちへ)に来寄(きよ)する住吉(すみのえ)の岸の黄土(はにふ)ににほひて行かな」(巻六・九三二)などがあり、奈良時代に活動した車持千年(くるまもちのちとせ)の作であることから、同時期の歌であった可能性も考えられます。
(本文 万葉文化館 井上さやか)

万葉文化館 イベント情報
特別展「NEW PAST飛鳥・藤原から東アジアへの旅」
開催中~1月18日(日曜日)
写真家・石川直樹さんが『万葉集』ゆかりの地を撮影した写真作品を展示します。「東アジア」とのつながりの中で揺れ動いていた「飛鳥・藤原」が浮かび上がる展覧会です。

対馬(2025)

沙弥島(2024)
※国内の小・中学生、高校生、18歳未満の人は無料。その他割引など、詳しくは当館HPをご覧ください。
石川直樹トークイベント
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1月10日(土曜日)14時~16時(開場13時30分)
[1部]石川直樹トークショー
[2部]トークセッション
[登壇者]石川直樹さん(写真家)
山田隆文(県世界遺産室調整員)
井上さやか(当館企画・研究係長)
[会場]企画展示室
[定員]150人(先着・要申込)
学芸員によるギャラリートーク
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12月17日(水曜日)15時40分~
[講師]当館学芸員
[会場]日本画展示室
万葉集をよむ
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12月17日(水曜日)14時~15時30分
「秋の相聞(そうもん)(2)」(巻8・1624〜1635番歌)
[講師]榎戸渉吾(当館研究員)
[定員]150人(先着・申込不要)
※オンライン視聴は要申込(定員なし)
にぎわいフェスタ万葉 冬
1月上旬~3月上旬予定
※詳しくは当館HPをご覧ください。

- 電話 0744-54-1850
- URL www.manyo.jp