印刷

ページ番号:20913

更新日:2026年3月2日

ここから本文です。

万葉集

2026年2月号

はじめての万葉集

春楊(はるやなぎ) 葛城(かづらき)山に たつ雲の
立ちても坐(ゐ)ても 妹(いも)をしそ思ふ

柿本朝臣人麻呂之歌集(かきのもとのあそみひとまろのかしゅう)(巻十一・二四五三歌)

【訳】春の楊を蘰(かずら)にする葛城山に湧き立つ雲のように、立っても座っても妻をこそ思うよ。

葛城山の雲に寄せる恋

本歌は、寄物陳思(きぶつちんし)という部立(ぶたて)に入れられている一首です。寄物陳思とは、自然の景色や物に自分の気持ちを重ねて表現する方法です。

「柿本朝臣人麻呂之歌集」は『万葉集』を代表する歌人・柿本人麻呂の歌を中心にまとめられている歌集ですが、現存していないためその実態はよくわかりません。『万葉集』編纂の資料として用いられ、巻によっては巻頭に本歌集の歌がまとめて置かれていることから、古い時代の歌々として位置づけられているようです。なお、平安時代に成立した『人麿集』という書物もありますが、それとは全く別のものである点は注意が必要です。

本歌はその表記が特徴的です。『万葉集』の歌が漢字ばかりで書かれていることはよく知られていますが、本歌の原文は「春楊 葛山 発雲 立座 妹念」と、わずか十文字の漢字で表記されているのです。このように助詞や助動詞にあたる字をほとんど表記しない歌を「略体歌」と呼びます。反対に、そういった字を表記する歌を「非略体歌」と呼びます。

さて、本歌の第一句「春楊」は、「葛城山」の枕詞となっています。柳を「かづら」(髪飾り)にするところから、第二句の「葛城山」につながります。

葛城山は現在の奈良県と大阪府の県境に連なる山々の総称で、金剛山を主峰とします。『万葉集』に度々詠まれ、前回(1月号)紹介した二上山も葛城山に含まれます。歌はそうした葛城山に立つ雲を話題にしています。この第三句までは第四句「立ちても坐ても」を引き出す序詞(じょことば)となっています。山に雲が「立つ」ことと人が「立つ」ことをかけているのです。

「立ちても坐ても○○をしそ思ふ」の形は本歌の他にも何例か見え、定型的な詠み方でした。○○には思う相手が入ります。本歌の場合は「妹」=妻のことを思っているとうたわれます。妻のことを思うと居ても立ってもいられないというのです。つまり、本歌は妻への恋の気持ちがつのり、落ち着いていられないそわそわとした心情を述べていると考えられます。

ところで、『万葉集』の他の歌を見ると、当時の人々は集まって柳を蘰にして遊んでいたことが知られます。この歌は、葛城山で柳を髪飾りにして一緒に遊んだ女性のことを思い出し、居ても立ってもいられなくなって詠んだのかもしれません。

(本文 万葉文化館 榎戸渉吾)

万葉文化館 イベント情報

特別展「隙あらば猫 町田尚子絵本原画展」

2月21日(土曜日)から5月6日(祝日・振替休日)

怖さとユーモア、美しさと不思議さをあわせもった画風で緻密な描写が魅力の絵本作家・町田尚子さんの絵本原画や絵画などを展示します。万葉文化館にちなんだ作品もご覧いただける展覧会です。

※小・中学生、国内の高校生、18歳未満の人は無料。その他割引など、詳しくは当館ホームページをご覧ください。

「ねこはるすばん」原画

ほるぷ出版2020年

万葉古代学講座【無料】

2月28日(土曜日)14時から15時30分

「『万葉集』の動物」

講師:榎戸 渉吾(万葉文化館研究員)

定員:150人(先着・申込不要)

※オンライン視聴は要申込(定員なし)

万葉集をよむ【無料】

2月25日(水曜日)14時から15時30分

「冬の雑歌(ぞうか)(2)」(巻8・1645から1654番歌)

講師:中本 和(万葉文化館主任研究員)

定員:150人(先着・申込不要)

※オンライン視聴は要申込(定員なし)

にぎわいフェスタ万葉 冬

開催中 3月8日(日曜日)まで

ひなまつり特別展示

2月21日(土曜日)から3月8日(日曜日)までエントランスで展示

※詳しくは当館ホームページをご覧ください。

 

奈良県立万葉文化館ホームページ

電話番号:0744-54-1850