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ページ番号:9881
更新日:2026年2月27日
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はじめての万葉集
県民だより奈良
2025年7月号

【vol.135】
三諸(みもろ)の 神の帯(お)ばせる 泊瀬川(はつせがは)
水脈(みを)し絶えずは われ忘れめや
三輪高市麻呂(みわのたけちまろ)(巻九・一七七〇番歌)
訳 三諸の神が帯となさる泊瀬川の、水脈の絶えないかぎり、あなたをどうして忘れようか。
川の流れと不変の心
本歌は、題詞によれば、三輪高市麻呂が長門守(ながとのかみ)に任じられた際に、三輪山付近の川辺(泊瀬川)に集まって宴会を開いた時に詠まれたものです。題詞とは、歌の前に置かれ、歌の主題や歌が詠まれた事情や年月、歌を詠んだ人の情報などを漢文で記したものです。「長門守」とは、長門国(現在の山口県の北部および西部)の行政を掌(つかさど)る役職の名です。『続日本紀(しょくにほんぎ)』によれば、高市麻呂は大宝二(七〇二)年正月に長門守に任じられています。本歌は、その折の送別会での歌と見られ、これから長門国へ赴任する高市麻呂が宴会の参加者に向かってうたいかけたものでしょう。
歌は、三輪山を擬人化して「泊瀬川」をその着物の帯に譬(たと)えています。「帯ばせる」は、「身につける」意の「帯ぶ」の敬語「帯ばす」に存続の助動詞「り」の連体形「る」をつけた形で「帯となさる」と訳せます。そうして帯びている泊瀬川の流れが絶えてしまわない限り、私はあなた方を忘れません、とうたっているのです。なお、『万葉集』において、本歌のように山を擬人化し川を帯とみなす例は、他に「大君(おほきみ)の三笠の山の帯にせる細谷川(ほそたにがは)の音(おと)の清(さや)けさ」(巻七・一一〇二番歌)などがあります。
高市麻呂の歌のように川の流れが絶えないことを条件に、自分の行動や気持ちが不変であることを誓う詠み方は、古くは柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)の「吉野讃歌」(巻一・三七番歌)に見られます。しかし、本歌の表現により近いのは「神山(かむやま)の山下響(とよ)み行く川の水脈(みを)し絶えずは後(のち)もわが妻」(巻十二・三〇一四番歌)でしょう。「神山のふもとを響き流れる川の水脈が絶えなければ、いつまでも私の妻であることよ」と、妻への不変の愛情を誓った歌です。
泊瀬川が現在も豊かな水脈をたたえるように、川の流れは容易に絶えることはありません。高市麻呂は、絶えることのない豊かな川の流れと同じように私もあなた方をずっと忘れません、とうたうことで、別れる友人たちを大切に思う気持ちを表したのです。
(本文 万葉文化館 榎戸 渉吾)

万葉文化館 イベント情報
特別展 天翔(あまかけ)る飛鳥(あすか)烏頭尾精の世界
7月12日(土曜日)~9月15日(祝)
明日香村出身の画家で、満93歳になる烏頭尾精さん。本展では、16年の歳月をかけて奈良や京都の古都の風景を描いた「古都シリーズ」を一挙に公開します。

烏頭尾 精《蘇る朱雀》
奈良県立万葉文化館蔵
※国内の小・中学生、高校生、18歳未満の人は無料。その他割引など、詳しくは当館HPをご覧ください。
- 対談

7月21日(祝)14時~15時30分- [講師]烏頭尾 精さん(日本画家)
西光慎治さん(明日香村教育委員会文化財課課長補佐) - [演題]画業70年のあゆみ
あすかの風土に生きて - [会場]企画展示室
- [講師]烏頭尾 精さん(日本画家)
- 学芸員によるギャラリートーク

7月13日(日曜日)14時~
7月16日(水曜日)15時40分~- [講師]当館学芸員
- [会場]日本画展示室
- 万葉集をよむ

7月16日(水曜日)14時~15時30分
「秋の雑歌(ぞうか)(4)」(巻8・1544~1556番歌)- [講師]井上さやか(当館企画・研究係長)
- [定員]150人(先着・申込不要)
※オンライン視聴(定員なし)は要申込
- にぎわいフェスタ万葉 夏
7月20日(日曜日)~8月30日(土曜日)
詳しくは当館HPをご覧ください。
- 電話 0744-54-1850
- URL www.manyo.jp
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