更新日:2026年2月27日
ここから本文です。

伊庭靖子 公開制作「伊庭靖子の見かた、描きかた」 撮影:守屋友樹
なら歴史芸術文化村は開村当初から、文化村ならではの特色ある企画「文化村クリエイション」を展開しています。今回は本企画担当者の遠山にインタビューしました。
これは、先進的なアーティストを招いて創作活動に取り組んでもらい、完成した作品の発表はもちろん、作品のテーマや題材を探るリサーチの様子や創作の過程を公開することで「創作を開く」プログラム。
創作の過程には、必ずしも作品に表れない、たくさんの発想のかけらや逡巡がある…。一見無駄とも思える試行錯誤や、作品だけでは知り得ない作家の姿に触れることで、芸術の豊かさを体感するきっかけとなることを目指しています。
昨年度に「文化村クリエイション」で招へいしたアーティストは3人。それぞれ充実した報告をオンライン上で見ることができます。ぜひ一度、リンクを開いてみてください。
vol.1 黒田大スケ
黒田さんは、社会で無視されるような存在に焦点を当て、リサーチをもとに作品制作をする現代美術家です。第二次世界大戦末期、文化村の周辺に突如つくられた「大和海軍航空隊大和基地(通称:柳本飛行場)のリサーチをもとに創作を試みました。

黒田大スケ 展覧会「湖底から帆」 撮影:来田猛
vol.2 相模友士郎
相模さんは舞台芸術作品をつくる演出家です。滞在制作期間を追体験させるように、少人数の観客とともに館内を巡り、最後は文化村のホールで全員が「眠る」という異色の作品『ブラックホールズ』を発表しました。

相模友士郎 公演『ブラックホールズ』 撮影:守屋友樹
vol.3 西條茜
西條さんは、陶を主な素材に作品を制作する現代美術家です。今回は、奈良の鹿が害獣にも神獣にもなることに着目し、野焼きした作品を近隣の納屋を展示会場に発表しました。

西條茜 展覧会「やまの満ち引き」 撮影:来田猛
2023年度1人目は、写真家の山本糾さんを招聘し、2月、芸術文化体験棟3階の交流ラウンジで展覧会「宇宙の中心にある水」を開催しました。
さまざまな「水」の姿を40年以上、撮り続けている山本さん。モノクロの重厚な写真はそれだけを見ると、少し難しい印象を受ける人もいるかも知れません。
それを「橋渡し」してくれるのが、会場で上映中のドキュメンタリー映像。2023年7月から奈良県内を巡ったロケハンと撮影の様子を40分にまとめてあります。40分と聞くと長いと感じるかもしれませんが、密度の濃い映像は見始めるとあっという間でした。
ドキュメンタリー映像は会期終了後、YouTube上で公開されています。
「作品を見続けることで、新たな発見があれば」との想いで配布されていた展覧会ポスターは。《津風呂ダム 2》と題した作品が日常の中にあることで、「芸術は宇宙を表現するもの」との山本さんの言葉が反芻されるようです。

山本糾 展覧会「宇宙の中心にある水」 撮影:山本糾
2月のある日曜日、アーティストの公開制作とスタジオトークを行いました。
アーティストは「文化村クリエイション vol.5」として2023年秋から文化村で創作活動を行う画家・伊庭靖子さん。伊庭さんは20年以上にわたり、陶磁器や模様のあるクッションなどのモチーフを写真に撮り、それをもとに精細な油彩画を描いています。具体的なものを描きながらも、ものの質感が前景化するように制作しています。
週末ごとの公開制作がスタートした昨年12月初めから、隔週日曜日に開催してきたスタジオトークはこの日が最終回。制作途中の作品や制作に使われる道具が間近に並ぶスタジオで、伊庭さんが自身の創作について語りました。
「何を描くかを手探りしていた頃、写真のピントの合ったところからボケているところまでを丸ごと描いてみた時に、ピントのボケや薄さ、軽さなど、写真の質感そのものがモチーフになることを見つけました」
「もともと手触り感が好き。革のものとか、ふわっとしたものとか、猫も好きですし…」
画風にも通じる伊庭さんの心地良い語り口に触れると、文化村のホームページ
文化村クリエイション vol.5 展覧会「伊庭靖子の見かた、描きかた」
に分かりやすくまとめられた伊庭さんの表現の変遷が、「ああ、そういうことなんだ。」と肌感覚で伝わってきます。

伊庭靖子 公開制作「伊庭靖子の見かた、描きかた」スタジオトーク
撮影した写真はまずパソコンで加工します。
「光の幅を縮めたり、色を転ばせてみたり…」
たとえば、赤みがかった画像を黄色っぽくしてみたり、少し青っぽい画像に温かみを持たせたり。描きたい質感を求めて画像を編集する部分で6~7割はイメージが固まるそうです。。
「質感」そして「光」を大切に描く伊庭さん。
「手触り感は人の記憶に深く残るもの。作品を見る人の中にある、温かさや香りなど、さまざまな感覚を呼び起こせる作品がつくれたら」と話しました。
これまでモチーフに意味はないと語ってきた伊庭さんですが、今回は滞在制作を機に、描くものを探して奈良を巡りました。
スタジオに掛けてある制作途中の作品には、文化村近くの風景や、出土品の陶片をモチーフに描いたものもありました。

伊庭靖子 公開制作「伊庭靖子の見かた、描きかた」 撮影:守屋友樹
2022年3月の開村から丸2年。文化村クリエイションのアーティストの人選、オファーはもちろん、リサーチから制作、発表段階までのすべてに寄り添ってきたのが、アートコーディネーター・遠山きなりです。
遠山はまた、芸術との距離が様々な来場者にその本質を伝える役割も担っています。
「衣食住に直結していない芸術は、ある意味、無くても困りません。でも、人生をかけて創作を行う人たちは世界中にいて、それだけの魅力がある。文化村に来たら、創作活動の豊かさに直に触れられる、そんな認識を少しずつを浸透させたい。継続こそが大切だと思っています」と遠山。今後の展開から目が離せませんね。

TOP > なら歴史芸術文化村とは > 過去の冊子・記事等 > コラム > コラム文化村クリエイション