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根づく場所を探す二人が、五條の人々と過ごした3日間

更新日:2026年9月1日

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Day1

2026年2月18日、大雪に見舞われた前週とは打って変わり、やわらかな日差しが春の訪れを予感させる穏やかな日。五條市で3回目となる移住体験プログラム「暮らす奥大和」がスタートしました。

今回の参加者は、千葉県出身で、現在は島根県の知夫村で教育の仕事に携わる米田晴香さんと、山形県出身で、現在は各地で季節労働などの仕事をしながら旅を続けているという会田朋史さん。二人は、和歌山県でのみかん援農の仕事をきっかけに知り合い、お付き合いされるようになったのだとか。

伊達さん:こんにちは~!米ちゃん、久しぶり!会田くんもありがとう!

待ち合わせの駐車場に車で到着した二人を、ホストの伊達文香さんがにこやかに歓迎します。

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伊達さんの挨拶からもわかる通り、二人と伊達さんはすでに面識があります。出会いは、米田さんが1年ほど前に伊達さんが代表を務める「株式会社イトバナシ(以下、イトバナシ)」のチョコレートブランド「chocobanashi」で短期アルバイトをしたことでした。

1週間という短い期間だったものの、勤務した五條本店での時間はとても楽しく心に残るものだったそうです。その後、地域おこし協力隊として離島にある知夫村へ移り住み、教育に関する業務に従事。活動期間の満了を迎えるにあたり、米田さんは伊達さんにイトバナシで働きたいと直談判し、いったんは祖父宅のある明日香村に住み、4月から正社員として働くことが決まっています。

そして、会田さんは米田さん経由で今年のバレンタイン商戦スタッフとして駆り出され、大阪の阪急デパートで「chocobanashi」の販売員として活躍。この後もまた次の援農先へと向かうことが決まっていますが、各地を巡る生活を経て地に足をつける大事さをぼんやりと感じていること、二人で暮らす場所を検討し始めていることなどから、このプログラムへの参加を希望されました。

簡単に挨拶を交わし、まずは伊達さんが営むイトバナシのオフィスに移動します。

1216五條市編では恒例となりつつある、起業家たちの拠点「GOJOチャレンジ」へ。18

伊達さん:今回は初めて、もともと交流のある参加者なので、二人が今後イトバナシや五條と関わってくれるときの選択肢が増えたり、もう少し大きく言うと、人生の選択の幅が広がるような時間になったらいいなと思っています。

伊達さんのパートナーであり、イトバナシのCFOとして経営を支える杉川幸太さんと共に、改めてイトバナシという会社の想いや活動の紹介が始まりました。

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杉川さん:最初に私が会社全体のことを少しお話して、その後人気の『ダテトーク』(笑)を聞いてもらおうと思いますので、よろしくお願いします。

プロジェクターで資料を映しながら、会社の概要やこれまでの歩み、現代社会が抱える課題、それに対するイトバナシの姿勢や、目指すものづくりの在り方、未来のビジョンなどが、杉川さんの口から、真剣かつユーモラスに語られます。

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杉川さん:私たちが扱う手刺繍の洋服やチョコレートなんていうものは、別になくなってしまっても生活が回るようなものです。昔はそういう「なくてもいいけど、あると暮らしが豊かになるもの」が当たり前にありました。今の世の中は、効率性が重視されすぎていて、こういったものが失われてしまっているように思います。

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時代と共に失われてきた非効率で豊かな手仕事を未来に繋いでいくには、ものづくりの技術や文化を守ると共に、その先にある届け方を変えていかなければなりません。その変化に必要なものと人、作り手と使い手の顔の見える関係性や、そこから生まれるコミュニティを大切にするイトバナシの真摯さが伝わってきます。

経営者としての視点や具体的な数字も交えつつ語られる杉川さんの言葉に、二人は時折頷きながらじっくりと耳を傾けていました。

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一区切りついたところで、「とにかく喋ることが大好き」という伊達さんにバトンタッチして、最近人気という「ダテトーク」がスタート。

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改めての自己紹介に始まり、設立から10年目を迎えるイトバナシの誕生のストーリーやその時々の想い、「わからなくてもとりあえずやってみる」の精神で、服飾の知識がないまま身ひとつでインドという異国に飛び込んでいった伊達さんの奮闘。時に笑いや裏話も交えながら、その波瀾万丈な冒険譚が語られます。

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伊達さん:20代でどんな経験をして、どう考えて、何を選ぶかっていうのは、その後の人生にすごく影響が大きいなって思っていて。人生って何歳からでもやり直せるって言われるし、自分もそう思うけど、それでもやっぱり過去の意思決定は今の自分に結構響いてるなって思う。だから、これからどこで暮らして、何を選んで、誰とどういう仕事をするかを決めていこうとしている今が、二人にとってめちゃめちゃ重要なタイミングだろうなと思ったので、自分の20代の頃の経験や想いをたっぷり話させてもらいました。

一本の映画を見終わったような余韻を感じていると、chocobanashiのスタッフの皆さんが合流してきました。つい先日、共に戦った今年のバレンタイン商戦の振り返りをするためです。

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全員の力で売上目標を達成したこと。よかったこと、もっとうまくできたであろうことなど、マネージャーから製造スタッフまで、バレンタイン商戦に関わった全員に情報共有がなされます。その後は、一人ひとり、振り返りをしながら感想を述べる時間。組織としての風通しのよさがよく表れた風景でした。

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同じ催事場で出店していた他ブランドのチョコレート試食会も行われ、わいわいと意見交換をしているうちに、二人の宿泊先となる宿のチェックイン時間となりました。

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宿泊先は、イトバナシのオフィスから徒歩2分のところにある一棟貸しの宿「yoinn|余韻」。玄関の戸を開けると、築約100年の古民家をリノベーションした素敵な空間が広がります。

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「こんにちは!」という挨拶と共に、オーナーの倉若太一さんがやわらかな笑顔で迎えてくれました。

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実は倉若さんは昨年のプログラム参加者。もともとは大阪市内にお住まいでしたが、宿を前オーナーから引き継ぎ、昨年4月に妻の真実さんと共に五條に移住されました。年末には第一子となる娘さんも生まれ、現在は新米パパとして奮闘中のようです。

伊達さん:太一くんは夜の懇親会にも来てくれることになってるから、またいろいろとお話も聞いてみてください。

宿についての一通りの説明を受けたら、倉若さんと別れ、昼食をとるため新町通りを西へ。

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こちらも五條編ではすっかりお馴染みとなった「山直」さん。明治15年創業の歴史あるお食事処で、伊達さんやスタッフの皆さんも日常的に足を運ぶという五條の銘店です。暖簾をくぐると、ふわりと出汁のよい香りが。

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豊富なメニューに迷いながらも、会田さんは牛カツ丼、米田さんは鍋焼きうどんをそれぞれ注文。

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そうしているあいだにも店には次々と人が訪れて、あっという間に満席になってしまいました。

米田さん:すごい人気ですね!

伊達さん:そうそう、いつもいっぱい。お願いすれば出前もしてもらえるし、ほんと山直さんにはいつもお世話になっていて、なくてはならない存在です。

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それぞれの家族のこと、米田さんの島暮らしのこと、会田さんの地元の山形市のこと。何気ない話題の中から、お二人のバックグラウンドと共に、それぞれの大切にしていることや今感じている課題なども伺えるひとときとなりました。

あたたかいおいしさに満たされた後は来た道を戻り、皆で伊達さんの愛車・デリカスターワゴンに乗り込んで次の目的地へ向かいます。

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4人姉弟の長女であり、一回り歳の離れた妹さんの成長をそばで見る中で、子どもの発達に興味をもったという米田さん。大学で発達心理学を学んで保育士の免許をとり、アクティブラーニング型学習塾の講師や学習支援員など、これまで子どもたちの育ちに関わる仕事に携わってこられました。

4月からはchocobanashiのスタッフとして、保育や教育とは違う仕事に就くことになりますが、子どもたちと関わる活動は続けていきたいという希望があり、五條市内で大人と子どもが学び合う場「おりじん〜想いで繋がるコミュニティ〜」を運営する上田聡美さんを訪ねます。

五條新町から車で約15分、活動の拠点となっている「五條の森」に到着しました。

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上田さん:はじめまして。今日はよろしくお願いします。どうぞ、こちらから上がってください。

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上田さんに促されて築約100年という古民家の中にお邪魔すると、自然光がたっぷりと入る室内は薪ストーブの熱でじんわりと暖まっています。

上田さん:それじゃあ、始めさせていただきますね。あまりこういう機会がないので、ちょっと緊張しています(笑)。

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上田さんはこの日のために、活動の趣旨や想いをわかりやすくまとめた資料を用意してくださっていました。

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上田さん:私は7年前に五條に引っ越してきました。これからずっとこの町で暮らしていくうえで、共に子育てをしながら成長できる仲間がほしいと思ったことがきっかけで、このコミュニティづくりをすることにしたんです。

もともとは幼稚園教諭として幼児教育に関わってきた上田さん。ご自身の子育てでは「子どもと一緒に自分ももっと成長していきたい」と、二人の息子さんと共に、五條から少し離れた天理市にある「森のようちえんウィズ・ナチュラ」に通い始めたそう。

そして、そこで、自然と関わる機会を十分にもてる環境や本音を話せる仲間、子どもが両親以外の大人と信頼関係を育む経験が、親子が共に育ち合うためにとても重要であると実感。ご長男の卒園が近づいたタイミングで、自身が住んでいる五條市内でも親子が自然の中で遊べるような空間がほしいと、まずは条件に合う場所を探し始めたといいます。

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上田さん:一見、五條市って山がいっぱいあるから、そういう場所はありそうだけど、親子で自由に入れるような山はなかなか見つからなくて。困り果てていたときにたまたま訪れたのが、この場所でした。当時はカフェとして営業されていたんですが。

古民家を改修した建物の裏には、遊歩道のある森が拓かれていました。「地域の人が集えるような場所、子どもたちが集まって周りを気にせず過ごせるような場所になれば」という想いで切り拓かれた森の姿が、上田さんの想いにピッタリと重なり、親子の自然体験の場として使わせてほしいとオーナーに申し出たところ、快諾してくださったそうです。

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その後、未就学児の親子を対象としたおさんぽ会や、五感を使って薪から火を起こすプログラムなど、親子向けのイベントを不定期に開催。昨年はクラウドファンディングにも挑戦し、多くの方から共感を得ました。今後は「大地の再生」という手法を使った森の環境整備を進めると共に、この場所に関わり続けてくれる仲間を募っていくそうです。

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上田さん:子どもたちが成長して親元を離れていく過程で、いろんなことが起こってくると思うんです。もしかしたら、孤独に感じたり、生きていくのがつらいと思うようなこともあるかもしれない。でも、幼少期に自分の命が躍動する感覚を積み重ねていくことで、すごく苦しいときに、ぐっと踏み止まれることもあるんじゃないかと思うんです。

 

つらいときに思い出せる景色や、苦しいときにふと顔が浮かぶ信頼できる人との出会い。そんなふうに子どもの心に残る場にしていくために、まだまだこれから関わってくれる人が増えたらいいなと思っています。

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活動についてお話を聞いた後は、実際に森を案内していただきます。昨年の環境再生講座で整えられた小川には水が流れ、遊歩道の脇からフキノトウが顔を出していました。

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落葉樹が葉を落とし、ふかふかになった地面には、たっぷりと陽の光が注がれています。

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会田さん:気持ちいいですね。やっぱり自然の多いところで暮らしたいなぁ。

上田さんのお話に耳を傾けながら、二人は生き生きとした表情で散策を楽しみます。

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清冽な空気の中にも春の気配を感じさせる森の時間は、あっという間に過ぎていきました。

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米田さん:今回こういうふうにお話を聞けて、とっても嬉しかったですし、春から奈良に引っ越してきたら、実際の活動にも参加させていただけたらなって思っています。今日はお時間をつくっていただいて、本当にありがとうございました。

 

上田さん:私にとっても、何のために何をしているのか、想いを整理するとても良い機会になりました。これからどうぞよろしくお願いします。

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森の入り口で記念写真を撮り、上田さんにお礼を言って別れました。

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スーパーで買い出しを済ませて「余韻」に戻ってきた一行。夜に予定している懇親会用の椅子と机をイトバナシの店舗から運び込み、薪ストーブに火を入れて一息つきます。

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そうしているうちに杉川さんが大量の食材を手に到着し、夕食の準備がスタート。

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杉川さん:今夜はタコスパーティーにします!

トルティーヤから手作りする本格タコスの提案に、一同から歓声が上がります。杉川さん指揮のもと、割り振りが決定。それぞれ準備に取り掛かります。トルティーヤ係の会田さんは、マサ粉(とうもろこしの粉)に塩やお湯を加えて捏ね始めました。全体がまとまってきたら丸めて、粉と水分をなじませるためにしばらく休ませます。

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具材係の米田さんは、まずカルニタスという豚の煮込み料理を準備。ごろごろとおおぶりにカットした豚の塊肉を、ラードやにんにく、ライム、パクチー、隠し味にchocobanashiのカカオコークシロップも加え、無水鍋でじっくりと煮込んでいきます。

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休ませていたトルティーヤ生地の成形は、会田・米田コンビで共同作業。米田さんが分割して丸め、杉川さんがこの日のために取り寄せていたトルティーヤパンを使って、次々に薄く伸ばしていきます。

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そうこうしているうちに、ひとり、またひとりと懇親会の参加メンバーが集まってきてくれました。明日、町歩きのガイドをしてくれる予定の打集さん、伊達さんのお母さんで「ししゅうと暮らしのお店」のスタッフでもある佳子さんに、chocobanashiの店長・柗本さんとスタッフの岡本さん。

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トルティーヤが焼けるこうばしい香りに包まれて、皆和やかな雰囲気です。

伊達さん:まだ来ていない人もいますが、一旦席について乾杯しましょうか。カンパ〜イ!

いつの間にかテーブルいっぱいに並んだ料理を囲み、伊達さんの音頭で本日最初の乾杯です。

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会田さん:おいしそう~!

米田さん:色とりどりでめっちゃきれい。組み合わせ迷うのも楽しい!

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紫と白、2種のとうもろこし粉を使った焼き立てトルティーヤに、トマトのサルサ、ワカモレ、海老のフリットに大きなソーセージ、そしてほろほろに煮込まれた豚肉料理・カルニタス。本格的なタコスに皆が盛り上がる中、特に注目を集めたのは、杉川さん特製の「モレソース」でした。

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メキシコの伝統的なカカオソースを、chocobanashiのチョコレートやカカオニブを使ってアレンジ。スパイスや塩、唐辛子、アーモンドなどと一緒にすり潰して煮詰めたという未体験の味わいに、皆興味津々でチャレンジしていました。

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その後、長いあいだ五條新町のまちづくりを牽引してこられた「NPO法人大和社中」の代表・中さん、伊達さんのお父さんの博彦さん、宿のオーナーの倉若さんも到着し、それぞれが持ち寄ったイチオシのお酒を楽しみながら、会場はひたすらに大盛り上がり。

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町の話題から参加者二人のこれまでとこれからの暮らしについてなど、それぞれに語り合いながら、いつまでも笑い声の絶えない一日目の夜は賑やかに更けていきました。

 

Day2

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2日目の朝。今日は空き家見学を兼ねた町歩きツアーからのスタートです。

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ガイドをしてくれるのは、懇親会にも参加してくれた建築家の打集さん。元は市役所職員として五條新町に関わってこられた経歴をおもちです。現在は、昨夜お会いした「大和社中」の中さんと共に、空き家の再生などにも取り組んでおられます。ご自身の事務所も五條新町内で施工中だそうで、そちらも見学させていただけることになりました。

打集さん:まずは通りの入り口側から案内していきましょうか。

よく晴れた真っ青な空の下、散策開始です。

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五條新町通りは、江戸時代初期の城下町を起源とする古い町並みが残り、重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。東西に真っ直ぐ伸びる通り沿いには、約4世紀にわたる様々な時代の町家が並び、暮らしの移り変わりを見られることから、町歩きに訪れる人も多い場所です。

歩きながら、昔のまちづくりのこと、五條の歴史、時代ごとの建築の特徴など、建築家としての知識に時折私見を交えて、ユーモアたっぷりに案内してくださいます。大学では建築や環境デザインを学んだという会田さんも楽しそうに聞き入り、時折質問を投げかけます。

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打集さん:この徳利型の看板、両側から見てみてください。表と裏で「酒」の書体が違うでしょう。これは昔、伊勢街道の商家町として栄えた頃の名残りで、お伊勢参りの旅人に方向を示す道標だったんですよ。

町の中のちょっとした景色も、打集さんの解説で、より鮮やかに浮かび上がって見えてきます。太さによってプライベートとパブリックスペースを区別する格子や、現代に近づくほど天井が高くなる2階部分、よく見ると大通り側だけ見事なカーブを描いている瓦屋根の秘密。

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そして、築400年を超える、建築年代の判明している民家として日本最古の建物「栗山家住宅」。

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なにより、打集さん自身が、この町をワクワクして楽しんでいる様子が伝わり、その物事を好きで仕方がないという人に教わるのが一番おもしろいんだなぁ、ということを実感します。

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まち歩きも後半に突入。ここからは空き家見学です。現在改修中の打集さんの事務所も含め、中に入れる空き家を、全部で3軒見せていただくことになりました。1軒目はイトバナシの「ししゅうと暮らしのお店」からもほど近い、元酒屋さん。中には荷物が散乱し、中庭は木や竹が伸びて、まるで山中のようになっていました。

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米田さん:こういう状況を目の当たりにすると、やっぱりすぐには住むっていうイメージは湧きにくいですね。

普段目にすることのない、長年手が入らず放置された建物内部の様子に、参加者の二人は少し圧倒された様子でした。

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裏口の先のテラスに上がると、波打つ紀伊山地の山々と抜けるような青い空が、吉野川の先に広がっています。素晴らしい景色を堪能したら、次の空き家へ。

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2軒目は、新町通の中ほどにある江戸時代に建てられた町家です。こちらは撮影禁止の建物なので写真でお見せできませんが、すでに打集さんが解体調査に取り掛かっており、天井や壁など傷みきった部分は剝がされて、かつてあった建具や構造材の痕跡が露わになっていました。

打集さん:古い建物を設計する醍醐味は、考古学的なところがありますね。天井や床をめくってみて、その中に隠れている痕跡から想像を膨らませる。なるべく元の形に復原したいからこそ、ひとつの答えにたどり着くまでに想像の余地がある。そんなところがおもしろいですね。

ゆくゆくは古民家を自分で直して住みたいと考えている会田さん。打集さんの言葉に頷きながら、「知識も技術を身につけていかないと」と意気込んでいました。続いて訪れたのは、これから打集さんの事務所になる、現在改修中の町家です。

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打集さん:内側から開けますから、ちょっと下がっててくださいね。

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立派な蔀戸が開く様子に、皆「おお〜!」と声を揃えます。今ではあまり見られなくなった建具ですが、玄関の柱に残ったかんぬきの留め具の跡から、もともとの形状を推測し、なるべく当時を再現するかたちで設置したそうです。

そうしていると、一人の女性が声をかけてくれました。近くにある貸切宿「お宿さつき」の女将、飯田美有さんです。

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伊達さん:美有さん、こんにちは!この二人が移住体験で五條に来ていて、打集さんに町を案内してもらっていたところなんです。

 

美有さん:はじめまして!もしよかったら、こっちものぞいてみます?

向かいにある、これから美有さんが活用していく予定の建物も見学させていただけることになりました。

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整えられた室内には新しい畳が入って、い草のいい匂いが広がっています。蔵へと続く広い中庭には屋根がかかり、テントサウナが設置されていました。

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美有さん:まだ準備中だけど、中庭に屋根つきの広いスペースがあるっていうのも珍しいし、バーベキューハウスみたいに使うのがいいかなって思ってるんです。みんなで集まれる場所になったら楽しそうだなと。

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五條新町の古い町並みに、またひとつ新たな明かりが灯ることになりそうです。美有さんにお礼を言って別れ、景色のひらけた堤防沿いを歩いて駐車場まで戻ることにしました。

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裏側から見る新町通りには、石垣を越えて増築されていたり、洗濯物干し場があったりと、表側とは異なる生活感がにじみ出た風景が広がっていました。

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打集さん:かつての僕は、ある種カオスのようなこの生活景をどうにかしたいなって思っていたんです。せっかくなら裏側ももう少し整えた方がいいって。でも段々と、こちら側が余地となったから、表のきれいな町並みが守られてきたんだろうと思うようになりました。今は、これはこれでいい景色とも言えるんじゃないかなぁと思っています。

温かな眼差しで町を見つめる打集さんの言葉に、二人は頷きます。

会田さん:もともと建築が好きなので、実際にいろんな年代の建物が見られてうれしかったですし、何より打集さんがご自身の言葉でイキイキと案内してくださったのが素敵でした。

 

米田さん:この通りは何度も通っているんですけど、いろいろとお話を聞けたことで、見る視点が変わっておもしろかったです。ありがとうございました。

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楽しい時間が過ぎるのは本当にあっという間。気がつけば3時間が経過していました。時計は13時を指していて、お腹もぺこぺこ。おいしいランチを求めて、市内で旬のフルーツ生産からドライフルーツなどの加工・販売も行う「堀内果実園」が昨年オープンしたばかりの「Land」に向かいます。

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ここは食と農をテーマに、育てる・つくる・食べるを体感できる複合施設。

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果物の収穫体験や加工場の見学ができ、またスイーツ作りや地域文化に触れるワークショップも開催されています。ガラス越しに加工場が見えるカフェスペースで、参加者の二人は自家栽培のフルーツを使った「焼き野菜と果実のカレー」を注文しました。

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かぼちゃやパプリカ、ごぼうなど、ごろごろと焼野菜がトッピングされたカレーには、旬の苺も添えられていました。

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伊達さん:カレーにいちごって初めて食べたけど、合うね!スパイシーなルゥとの相性がいい感じ。

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「せっかくなので旬の苺を堪能したい」と注文したデザートのパンケーキは、苺のピュレが混ぜ込まれたスフレ生地に苺クリーム、苺ソース、別添えの苺がお皿いっぱいにのせられ、まさに苺三昧。

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三人は大満足でお店を後にしました。

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続いては、五條から少し離れた橿原市にあるクラフトビールメーカー「FARMENTRY(ファーメンタリー)」へと向かいます。大のビール好きで、醸造にも興味がある会田さん。ものづくりの現場をいろいろと見てみたいという希望もあり、五條市出身で伊達さんとの交流も深い西崎翔さんが代表を務めることから、市外に飛び出て醸造所を見学させていただくこととなりました。

到着すると、西崎さんと、西崎さんが声をかけてくれていた醸造仲間の小川実咲さんが迎えてくれました。

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挨拶を交わし、さっそく醸造所内を見学させていただきます。もともとは車の整備工場になる予定だったという天井の高い空間には、銀色の発酵タンクがいくつも並んで輝いていました。

西崎さん:僕は五條市で生まれて、他県の学校に進学した後、ここからも近い奈良医大に放射線技師として就職しました。学生の頃からお酒とかビールの世界に魅力を感じていたんですけど、独学で勉強していくうちに、自分で醸造所をやりたいっていう思いがどんどん大きくなって。

 

しばらくは病院で働きながらお金を貯めて、その後和歌山のクラフトビールメーカーに転職しました。6年間修行して、そこで出会った友人と二人でファーメンタリーを立ち上げたんです。

放射線技師と聞くと、現在とは全く関係のない仕事に思えますが、意外なところに当時の知識が生かされていました。

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西崎さん:ここの設備は、大方自分で作ったんですよ。図面を引いて海外のメーカーにオーダーメイドで依頼したパーツを輸入して、組み立てるのも自分たちでやりました。大人のプラモデルみたいな感じですね(笑)。

 

会田さん:ええっ!これを全部自分で?そんなことできるものなんですか?

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見上げるほど大きなタンクやずらりとスイッチが並ぶ操作パネル、入り組んだ配管など、どれもこれも個人で設計・施工までできるとは思えないものばかりです。

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西崎さん:放射線技師って機械の知識は必須なんで、学生の頃に電気工学の授業があったんですよ。電気屋さんじゃないから工事は業者さんにお願いしましたが、図面は引けたんです。もちろん、一般的には図面から専門の業者さんに任せるものだし、そのほうが安全ですよ。でも、経費を抑えたいのもあったし、その分設備の規模を大きくできました。そして何より、融通が利くんです。トラブルがあっても自分で修理できるし、そういう点でもよかったと思いますね。

驚きのエピソードを交えながら、西崎さんはとても流暢な語り口で、製造工程を案内してくださいます。途中、焙煎された香ばしい麦芽の味見をさせてもらったり、発酵前の原麦汁を試飲したりと、ここでしか体感できないクラフトビールの世界に、参加者の二人もとても楽しそうです。

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ぐるりと一周したところで、一番奥のシャッターの先にある、板壁の小部屋へと案内していただきました。

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西崎さん:ここでは「ミックスカルチャー」ていう、ちょっと特殊なビールを作っています。野生酵母で発酵させるビールで、まだ温度計や金属のタンクが発明されていない、1800年くらい前のヨーロッパでされていたような、伝統的なやり方で醸造しているんです。

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温度を一定に保つために土壁や木毛を入れて断熱された部屋の中には、ワイナリーを彷彿とさせるような木樽が並んでいます。樽についた菌を継いでいく「秘伝のたれ方式」で、発酵は菌に任せ、丸一年かかってやっとできあがるというビール。「お金にはならないけどロマンがあるでしょ」と西崎さんは笑います。

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近年市場が拡大しているクラフトビールですが、ビール類全体におけるシェアはまだ2%に満たないと言われているのが現状です。日本全国に小規模ブルワリーが急増し、時代の流れに乗って大手企業も参入する中、今がまさに戦国時代と言えるのだそう。

西崎さん:ものづくりってブームに左右されるところもあるし、難しい部分も多い仕事だと思います。でも、好きやから続けられるし、ロマンはある。そうじゃないと僕もやってないしね。

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そんなビール愛に溢れる西崎さんが生み出すビールを心ゆくまで堪能できるよう、この日はタップルームの前にテントを張って、BBQの用意をしてくれていました。午前中にガイドをしてくれた打集さんも合流し、お待ちかねの宴会がスタートです。

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様々な産地の酵母や麦芽、副材料を組み合わせて作られた多種多様なビールを、作り手のお話を聞きながら楽しめるという贅沢なひととき。

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楽しい会話とこだわりのビールに酔いしれて、2日目の夜も更けていきました。

Day3

そして迎える3日目の朝。

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宿から歩いて向かったのは、昨日まち歩き中に声をかけてくれた飯田美有さんが運営する「caféことほぎ」です。この日は旦那さんの正豪さんも一緒に、五條での暮らしについてお話を聞かせていただきます。

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着物姿の美有さん、正豪さんがにこやかに迎えてくれます。五條市役所の職員の方々も、お仕事の合間を縫って駆けつけてくださいました。

正豪さん:僕らは普段、宿の運営をメインにやってます。今五條市内では3つの宿があるのと、去年からこの場所を借りて、カフェをやったりイベントを開いたりして活用方法を見出していってるところです。

正豪さんはオーストラリア出身、美有さんは和歌山県の出身。大阪と京都でそれぞれ民泊事業をしていたお二人ですが、結婚を機に正豪さんの祖父母宅がある五條に移り住み、こちらで宿を始めたそうです。

土地に根づく必要性を感じ、その場所を探している会田さんは、なぜ五條に決めたのかと正豪さんに投げかけます。

正豪さん:地方で接点のあるところが、たまたま五條だったっていう感じですね。子育てするなら、都会より少し広々とした環境のほうがいいかなって。実際に住んでみて、居心地がいいよっていうのは自信をもって言えます。だけど、課題もある。盛り上げていかないと自分がおもしろくないし、そのためにも町を若返らせるっていうのが今やりたいことで、宿も外から人を呼ぶ手段のひとつではありますね。

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美有さん:五條は、子育てするにはすごくいいですよ。環境もいいし、学校にも困らない。それに、もし子どもが将来海外に出る機会があったとして、「日本人としてのアイデンティティ」って大切になってくると思うんです。江戸時代の町並みが残る場所で育ったこととか、柿の葉寿司を食べたことがあるとか、お母さんが着物を着てたとか……。

 

五條にはそういうふうに語れる日常がある。そういうものが将来、海外でできた友達にも自信をもって語れる、自分だけのルーツになるんかなぁって。大人になったときに、そういう土台が自分を「どこにでもいる誰か」ではないって思わせてくれるんじゃないかとも思うんです。

正豪さんからの「これからどんなことをしていきたいの?」という問いに、「農業がしたいです」と会田さん。

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会田さん:もともとは建築関係の仕事をしていたんですけど、改めて自分が生きていくために必要なものって考えると、その根幹を支えてくれてるのはやっぱり「食」かなって思ったんです。社会全体を見ても、一次産業が重要かなと。あとは援農とかでやってみて、自分に合ってるなっていうのもありました。

そんな会田さんに「農地探してこようか」と飯田夫妻はにっこり。市役所職員の方々も、新規就農の補助金の情報などをさっと教えてくれます。

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正豪さん:何かあったら必ず力になる……とまでは言えないけど、いつでも話を聞くし、今後もお気軽にお問い合わせください(笑)。

 

美有さん:あまり考えすぎなくても、いろいろやりたいことやっていくうちに、自分の行きたかった場所に繋がっていったりするんじゃないかな。

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「また会いましょう」と明るく笑う正豪さんと美有さんに見送られて、3人は次の目的地へ。訪ねるのは、五條のお隣の葛城市にある「めぐるふぁーむ」さん。少量多品目の野菜を無農薬・無化学肥料で育てる岡祥満さんと妻の夏実さんにお話を伺うため、今日もデリカで向かいます。

途中、岡夫妻への手土産を購入するため、五條市の鶏肉専門店「五條チキン上岡商店」に寄り道。

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伊達さん:ここのからあげがめっちゃおいしいんですよ。お土産と別に買ったんで、みんなで一個ずつつまみましょう(笑)。

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おいしいからあげをモグモグしながら車を40分ほど走らせると、あの『万葉集』にも読まれる二上山のふもとに到着。

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駐車場に車を止め、集落の中を抜けていくと、岡さんのご自宅がありました。

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祥満さんは、現在お住いの葛城市のご出身。大学を卒業後、イタリアンレストランで調理の仕事をし、当時栄養士をされていた夏実さんと結婚。その後、新婚旅行でバックパックを背負い、食をテーマにした世界一周の旅に出たそうです。

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伊達さんとのご縁は、夏実さんがchocobanashiのスタッフとして勤めていること。伊達さんはもちろん、米田さんとも面識があり、また会田さんが今後農業を生業にしていきたいという希望があることから、この出会いが実現したのでした。

友人の大工さんの協力を得て改修したというおうちの中は、手作業で塗られた土壁やふんだんに使われた木の温もりが相まり、とても落ち着く空間です。2階にはアーユルヴェーダセラピストとしても活動されている夏実さんのサロン「くじらとて」の施術部屋もあり、薬草オイルの優しい香りがほのかに漂っています。

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広々とした土間のキッチンスペースでは、岡夫妻が昼食の用意をしてくれていました。

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祥満さん:皆さん好きな分だけ、自由に盛りつけていってください。

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木製の大きなキッチンカウンターの上には、色とりどりの料理がずらり。菜の花、人参、キャベツ、飛鳥あかね蕪、葱味噌、菊芋とじゃがいものオーブン焼き、キムチにぬか漬け、お味噌汁……と、野菜はもちろんのこと、添えられたソイマヨネーズやお味噌など、自家製のものばかりで、一同感激しきりです。

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夏実さんお手製の肉まんも蒸し上がり、皆ほくほく顔で席につきました。

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一同:いただきま~す!

心尽くしのお料理に会話も弾み、お腹も心も満たされた後は、祥満さんの畑を見せていただきます。

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最初に案内してくださった段々畑には、大根や白菜、キャベツやブロッコリーなどの冬野菜が植えられていました。

23野菜のほかには、クロモジやレモンの木が植えられ、椎茸のホダ木も並んでいます。

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祥満さん:椎茸は春と秋に収穫します。天候とか頃合いをみて、ホダ木を叩くんですよ。菌を起こす。そうすると数日でどんどん出てきます。雨の後とかね。

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会田さん:畑はどれくらいの広さがあるんですか?

 

祥満さん:全部で7反くらいですね。一人でそれくらいはしないと、生計が立たないとも言われてます。他の畑も見に行ってみましょうか。

歩いて移動しながら、農業や暮らしについて様々に尋ねる二人。その中で、岡さんから少し意外な本音も聞くことができました。

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会田さん:これからもっと畑を広げていったりされるんですか?

 

祥満さん:いや、減らしたいくらいですね。本当は野菜も売りたくない。

 

会田さん:えっ!売りたくないっていうのは……?

 

祥満さん:農業をしていきたいっていうより、農的な暮らしがしたい。生活のために必死に作物を作って、しんどい顔して売るのも嫌やし。こういう話をすると大抵の人からは「そんなに甘くないよ』って言われるんやけど、それもわかるけど、心のどこかではそれを覆したいみたいなことも思ってて。柔軟にやっていきたいですね。

祥満さんが語ってくれたエピソードの中に、世界一周の旅の途中に出会ったパーマカルチャー(持続可能で循環型の暮らしや社会をデザインする手法)を実践するご夫婦との話がありました。

もともと更地だったところに家を建て、その後約300本もの木を植えて、その土地で自給自足に近い暮らしをされていたご夫婦。一週間近くそこに滞在し、すぐにはピンとこなかった部分もあったそうですが、少しずつ自分の中で腑に落ち、「あの暮らしを生業にできたら」という思いが農業を始めるきっかけになったそうです。

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次に案内してもらった畑では、土中に空気を取り込む試みや、出来のよかった作物をあえて土に還すことで微生物を活性化させる方法など、自然の原理を活かした様々な工夫を教えてくださいました。

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祥満さん:あっちの列は耕して、ビニールのマルチをかけています。こっちは耕さず、草も生やしてる。仕事としての畑と、やりたいことをやる畑。今は両方やってますね。

1そしてもう一ヶ所、国道を渡った先にある畑も見せてもらいました。23

4畑の隅に立つ大きな夏ミカンの木の向こうには、街の景色が広がっていました。

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祥満さん:ここからの景色が好きやったんですけど、だんだん家が建ったり、会社の倉庫ができたり……目に見えて農家が減ってきました。前はここ全部、田んぼやったんですけどね。

生まれ故郷の田んぼだった場所が日に日に開発されていく様を見るのは、田舎で育った人であれば、誰もが一抹の寂しさを感じることでしょう。それが、毎日畑に立つ農家として生きていたら、きっともっと強く感じるだろうと思いました。

ぽつぽつと小雨が降り出したので、少し早歩きで岡家へ戻ると、夏実さんが熱々のチャイとお手製のレモンクッキーを用意して待ってくれていました。678

農業に関心のある会田さんは「ここに来てどう感じたのか」を聞いてみました。

会田さん:「農業」ではなく「農的暮らし」をしたい、という感覚は、僕もわかる気がしました。そして、一口に農業といっても、考え方ややり方が農家さんによってけっこう違うというのを、改めて目で見て、知れて、よかったです。これから僕も実践しながら農業についてしっかり学んで、その中で自分に合ったやり方を見つけながらやっていきたいと思います。

 

お二人がこれからさらに、どういうふうに暮らしていくのかもすごく気になるので、今後もぜひよろしくお願いします。

皆で話を広げる中で、研修生を受け入れている自然農園が近くにあるという情報も。会田さんからは、「前向きに考えたい」という言葉が飛び出すなど、岡夫妻との出会いが、本当に会田さんの背中を押すことになるかもしれないという、期待が高まる締めくくりでした。

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どこまでもキュートな岡夫妻に見送られ、ここで全ての予定が終了。五條に戻り、杉川さんも合流して、chocobanashiのカフェスペースでこの3日間をそれぞれ振り返ります。

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まずは米田さんから。

米田さん:いろんな人にお会いできて、どんなふうに人生を選択してきたかたくさん聞かせてもらえて、すごく贅沢な時間でした。地域にどういう人がいて、何を思いながら働き、生活しているのかを、今自分がとても大事だと感じているので、五條には自分たちのやりたいことを大切にしながら、この町をよりよくしていきたいっていう人たちのコミュニティがあることを知れてよかったです。

 

こういうふうに町のことを大切に思う人たちがいる地域は、自分が住むのも楽しいだろうなって思ったし、4月からchocobanashiで働かせていただくにあたって、これから自分がこの町とどう関わっていくのか、考るきっかけになりました。ありがとうございました。

続いて、会田さん。

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会田さん:今回の移住体験の目的として、もちろん五條のことを知るっていうのはありつつ、僕ら二人で同じことをしてどう感じるかっていうのを共有してみるという目的もあったので、一緒にいろんなことを体験して、その出来事ごとの二人の見え方をシェアできてよかったなって思います。

 

僕自身が今悩んでいた、仕事と暮らしと、二人としてこれからどう生きていくかについても、いろんな方のお話がとても参考になりました。仕事の面では、とりあえずやってみなきゃ相談すらできないし、とにかく早く始めたいって強く思いましたね。

 

岡さんの「できることなら農作物は売りたくない」という言葉は特に印象的でした。農業をしたいんじゃなくて、農的な暮らしをしたいっていうのは、僕もそうだなぁって。畑を案内してもらったときもすごく楽しくて、やりたいのはやっぱこれだなって久々に強く感じることができたので、次のステップに早く行きたいって思えました。仕事と暮らすこと、移住みたいな具体的なところはまだ曖昧なままなので、これから二人でしっかり話し合っていきたいなと思います。

お二人の言葉を受けて、杉川さんから。

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杉川さん:二人がこれからどうなっていくのか、今はまだ想像もつかないけど、そういうまだいろいろと決まっていないタイミングで、こうやって刺激的な人たちにたくさん会ったというのは、数年後とか数十年後に思い返せば、すごくターニングポイントになるような時間だったんじゃないかなと感じました。

 

まぁ、別に元気よく生きてさえいたら、基本的にはいいですから。いろいろ考える時期だろうとは思うけど、あんまり考えすぎなくても、世の中はちゃんと回っていきますよ。そんなにプレッシャーに感じずに、世のため人のためにいいことしようとか考えすぎずに。ほとんどの人はそんなに器用じゃないものだし、生きてたら迷惑をかけることもあるもんだと思って、気楽に生きていったらいいんじゃないかと思います。

最後は伊達さんです。

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伊達さん:会田くんとは改めてゆっくり話して、本質的なところと、普段表層に出してる部分に結構ギャップがある人だっていうことがわかりました。言語化する力がすごくある人だから、もう少しありのままの部分を出していったほうが、自分のやりたいことを叶えていきやすくなったり、生きやすくなるのかなって思ったりしました。そういうところも含め、見えていなかった部分を知ることができておもしろかったです(笑)。

 

米ちゃんはちゃきちゃきしているように見えて、意外とゆっくり考えて出してくるタイプの人なんだってことが知れて、興味深かったです。一旦興味をもったことを追い続けられる人なんだなっていうのが、今回すごく見えました。さっき杉川さんが言ってたみたいに、この3日間で感じたことが今すぐに消化できてなかったとしても、多分米ちゃんの中でちゃんとストックされて、今後引き出されていく瞬間があるのかなと思います。

 

二人の素直さや誠実さのおかげで、私たちが楽しかったのはもちろん、今回会いに行った先の人たちにとっても有意義な時間になったんじゃないかなと思います。実際、考えを整理するいい機会になったって連絡をいただいたりもして、改めて、この「暮らす奥大和」はおもしろいプログラムだなって思いました。そして、おもしろい化学反応が起こって、全体を通していい内容になったのは、二人の人柄のおかげです。

 

もともと目的にしていた、二人の人生の選択肢が広がるような3日間になっていたらいいなっていうことに関しては、今すぐに成果は出ないかもしれない。でも、これから時間をかけてそうなっていきそうだなって思うし、そうなっていってくれたらおもしろそうだなって思います。ありがとうございました。

こうして今年の「暮らす奥大和」五條編は無事に終了しました。米田さんと会田さんは、またしばらくは別々の場所で暮らしを紡いでいきます。

30歳という節目を目前にしたときの、なんだか急に足元がそわそわするような感覚。そんな時期を迎え、たくさんの可能性の中で揺れる二人が出会った、大切なものに向かって真っ直ぐに生きる五條の人たち。今回の3日間で蒔かれた種がいつのタイミングで芽吹くことになるかは、まだ誰にもわかりません。

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でも、この五條という土地との間に、かけがえのない繋がりが生まれたのは間違いないでしょう。今後、二人が選ぶ場所が五條だとしても、それがたとえ違う場所になったとしても、二人が選んだ土地で根を張り、それぞれの花が咲く日を心から楽しみにするような、あたたかな出会いがたくさん生まれた、実に豊かな3日間でした。

 

文=大窪宏美(equbo*)写真=中部里保

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